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住宅ローンの期限前償還はパススルーMBSの支払い金のタイミングを不確実にします。
住宅ローンの返済金という長期にわたるキャッシュフロー(満期15~30年)がそのまま支払い金となるためこの不確実性は大きなリスクです。
CMOはこのパススルーMBSが支払うキャッシュフロー全体を支払いのタイミングが異なるいくつかの部分(トランシェtrancheと呼ばれます)に人工的に分割することで支払いのタイミングをトランシェごとにある程度コントロールします。
単純化された例で説明するならばまず最優先で支払いを行う部分(第1トランシェ)次に支払いを行う部分(第2トランシェ)そして最後に支払いを行う部分(第3トランシェ)を作ります。
各トランシェヘいくらまで支払うかその上限はあらかじめ決めておきます。
そして対象資産となる住宅ローンからの返済金を第1トランシェから最優先に払い込んで行きます。
第1トランシェヘの返済金の支払い額が設定された上限に達したら次に第2トランシェヘ優先的に返済金を注入します。
さらに第2トランシェヘの支払いの上限に達したら今度は第3トランシェに返済金を注入します。
こうしておけば最優先される第1トランシェヘは比較的短期間で支払いが終了し次に優先される第2トランシェヘの支払いは中期間かかり最後にまわされる第3トランシェヘの支払いは長期間にわたることになります。
ここでこれらのトランシェの各々を原資として別々の証券を発行します。
すると第1トランシェに注入される返済金を原資に支払いを行う証券は比較的短期の第2トランシェを原資に発行する証券は中期のそして第3トランシェに対応する証券は長期の満期を持つ証券になります。
もちろん期限前償還があればすべての証券の支払いのタイミングも影響を受けますがその影響はパススルーMBSに比べれば十分小さくなり完全ではありませんがある程度はコントロールされたものになります。
これがCMOの原理に他なりません。
期限前償還リスクをコントロールするためにパススルーMBSを短・中・長期の満期を持つ別々の証券へと分解するCMOはそれまで長期の投資家しか参加しなかったMBS市場を短期や中期の投資目標を持つ投資家にとっても魅力的なものへと変貌させました。
このことはより多様な投資家をひきつけ住宅ローンの証券化市場を発展させました。
しかしながらCMOの登場の影響は単なる特定の市場の規模の拡大にとどまりません。
もっと大きな影響すなわち市場参加者に「発想の転換」をもたらす契機ともなったのです。
対象資産のキャッシュフローを原資に発行する証券の支払いをデザインする過程において適切な仕組み(ストラクチャー)を作り上げれば期限前償還のようなリスクでさえもある程度コントロールできる。
さらにこの仕組みをうまく作れば長期にキャッシュフローをもたらす一つの対象資産から短・中・長期の異なる投資目標を持つ異なる投資家の異なるニーズに合致する証券を作り出せる。
このような「異なる投資家の異なるニーズに合わせて取引するリスクをコントロールする」というアイデアを実現できることがCMOの登場によって目の当たりになったからです。
こうしてCMOはストラクチャリングを通じて投資家の需要に合致するよう能動的にリスクをコントロールしながら取引するという証券化の発想の原型を決定づけました。
一つの対象資産のキャッシュフローから数種類の異なる証券を作り出し投資家のニーズに合わせてリスクを細分化し切り売りする」というこの発想と手法はデリバティブ技術の発展とともに様々なリスクの切り売りを可能にし、その後の証券化の爆発的な発展を実現させることとなったのです。
対象資産のキャッシュフローを異なる投資家のニーズに合わせて切り売りする。
いったんこのことに気がついてしまうと投資家の需要に合致するならどんなリスクの切り売りであっても構わないと考える方が自然になります。
そこで証券化の第三段階において様々なリスクをコントロールして切り売りするために様々なストラクチャーが考案されました。
そのいくつかはリスク・コントロールの標準的手法として証券化において広く利用されるようになっています。
いかなるローンであれその返済金は利子支払い部分と元本支払い部分の合計額として表されます。
よって住宅ローンの返済金のプールである対象資産が生み出すキャッシュフローも利子支払いによる部分と元本支払いによる部分に分けられるはずです。
ならば対象資産のキャッシュフローを二つに分け利子支払いの部分のみ(IO)を支払う証券と元本支払いの部分のみ(PO)を支払う証券を発行しそれぞれを最も欲しがる投資家に別々に売却できても不思議ではありません。
IO/POはパススルーMBSに比べて利子率と期限前償還の変動に大きく反応します。
このためMBSのポートフォリオを持つ投資家はIO/POをあまりたくさん取引しないでもMBSのリスクを打ち消すヘッジポジションを取ることができます。
こうしてコストを抑えつつヘッジを行う手段としてIO/POは役に立ちます。
またIOとPOを合計すれば理論上は原資となるパススルーMBSと同じキャッシュフローを生み出します(二つに切ったものを元通りに足し合わせるのですから当然といえば当然です)。
このためもしもIOとPOの価格を足し合わせたものと元のMBSの価格が一致しないなら将来の同じキャッシュフローに現在異なる値段がついていることになり理論上は高い方を売って安い方を買えば裁定の利益を得られることになります。
こうしてIO/POはMBSを対象とする投機の手段を提供します。
このようにIO/POの登場はMBSへのヘッジと投機の双方の手段を提供し取引に参加する投資家を増やすことで住宅ローンの証券化商品の市場の厚みを増すために役立ちました。
もっと素直でそしてもっと広範に必要とされるのが信用リスクのコントロールです。
例えば10億円の返済をする契約になっているものの借り手が全額は返済できなくなって3億円しか返済されない可能性がある債権が対象資産である場合を考えてみましょう。
対象資産が債務不履行の信用リスクを抱えているというわけです。
ここでもしも対象資産が生み出すキャッシュフロー(返済金)をそのまま支払い金とするパススルー証券を発行するならそのパススルー証券も当然対象資産であるこの債権の信用リスクを抱えることになります。
ではパススルー証券の代わりに対象資産のキャッシュフローを3億円まで優先的に支払う約束の債券1と債券1への支払いが終了した残りのキャッシュフローを7億円まで支払う約束の債券2を発行したならどうでしょうか。
対象資産は常に3億円以上のキャッシュフローを生み出しますから優先債券1には確実に3億円か支払われます。
他方劣後債券2は全く支払いが行われない可能性もありパススルー証券よりも大きな信用リスクを抱えることになります。
よって支払いの優先順位に関してこのようなストラクチャーを導入すれば劣後債券2を犠牲にすることで信用リスクにさらされない優先債券1を作り出すことが可能となるのです。
このようにして信用補完された優先債券1は不払いのリスクが減る分高い格付けを取得することができます。
高い格付けを得られれば投資家の債券1への需要も増え高い金額で売却できます。
この価値の増加が信用補完にかかる費用-すなわち二種類の債券を発行するコストと債券2の価格の下落分を上回るなら発行者の売却益は増えこのような優先・劣後ストラクチャーを使った信用補完の利益があるというわけです。
信用補完の方法はもちろん優先・劣後ストラクチャーだけには限りません。

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